2008年ブラジル滞在日記 その23  by Keiichi YAMAZAKI
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記 事70 ブラジルの環境弁護士
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 クリチバの公共省(Ministério Público )の幹部から、一人で環境裁判をして勝った女性弁護士が、パラナ州の奥地におられるときいたので、帰国があさってに迫っていたが、急遽1 泊 2日でいってきた。セントロのバスターミナルから出るPrincesa dos Campos社のバスで、3時間半であった。片道$R35。距離としては208kmである。ホテルはElite Palace Hotelにした。インターネットで探して、電話して、予約しておいた。小さなホテルだが、床は板張りで、全体にあたらしく、清潔なこと、この上ない。床 はなめることができると思うほど、きれいにしてあった。この田舎の小さな街に、これだけきれいなホテルがあるのが、不思議に思う。ちなみに宿泊代は、家族 室で$R130。
 人口約50、000人のムニシピオ(自治体)で、広さははしからはしまで100kmあるという、地理的におおきな自治体である。7割は農村部に暮らして おり、し たがってわれわれが宿泊した都市部は1万人強の規模の集落といえる。こういう市街地は、ブラジルでは定義上は「都市部」となる。到着は夜7時半で、すでに 暗く、中心部のセントロも、人通りが少ない。ほとんど誰も歩いていない。月曜日の夜なのに、商店は閉まっている。治安はいいのだろうか?商店とくに衣服店 のマネキン人形が不気味にみえる。さびしいところにきたものだ。
 しかし家内がきづいたが、商店という商店の玄関がガラス張りで、鉄格子がない。治安上の防護対策がまったくされていない。安全な街なのだ。夕食は、1軒 だけシュラスカリアが空いているというので、15分ほど探してみつけた。肉料理を食した。日本人ということで、厨房の女性がわざわざわれわれをみに、出て きたようだ。日本人はほとんどいない街である。お店には、わかい男性、女性の給仕係がいたが、女性は色白の西欧人。ウクライナ系だろうか。この街は、圧倒 的な人たちが、ウクライナ系のブラジル人である。ウクライナ風の教会が、都市全体にたくさんあり、きわめて宗教色の強い地域である。最初のウクライナ人が 入植して、約100年がたっている。100年誌が$R75で、ホテルの受付で販売されていたので、購入した。たくさんの写真と説明が詰め込まれた、196 頁からなる、大著だ。A4より大きなサイズなので、重たい。また、日本へ持ち帰る荷物が増えてしまった。
 こんな田舎の、しかもカトリックやウクライナ系の教会が目白押しのコミュニティに、ひとりで環境裁判をおこして勝利した女性がいるというのが、不思議で ある。「村社会」で、裁判など、できるのだろうか?あるいは、村の共同体的人間関係をつかって、うまく裁判をすすめて、いわば義理人情で勝利をかちとった のだろうか?
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 結論を先にのべよう。この弁護士さんはVaniaさんというが、ばりばりの都会派という感じの弁護士であった。たいへんさわやかで、てきぱきとした方 であ る。人柄は、全然攻撃的ではなく、穏和な方である。裁判は、農薬と健康被害の関係を徹底的に証明して、勝利された。一切義理人情はつかわなかった(ブラジ ルでは司法の腐敗度が高いが、彼女はわいろなどつかわず正攻法で勝利した)。ある医師の協力が得られた。原告の農薬被害者は、隣の 町にすんでいる男性。幸い、死亡にいたらず、生存されている。おおい症状は、自殺らしい。話をしていてすぐわかるが、優秀なかただ。またエネルギーにあふ れている。なんといっても、弁護士業いがいに、FMラジオを経営されている。環境教育や音楽を放送されている。それとINGという環境NPOを主催されて いて、農薬問題だけでなく、農村エコツーリズムを、ブラジル連邦環境省やHSBC(多国籍銀行)の支援をえて、いまつくっておられる。
 事務所で裁判提訴書類のコピーを頂戴し、裁判や農薬による健康被害の話をすこしうかがった。とくにたばこ生産者に健康被害が生じている。たばこ(ポルト ガル語でfomo)の場合、農薬散布の作業が手作業になっており、農業労働者は直接農薬を吸い込んでしまうらしい。健康被害と農薬の関係を疑う人がいな かったため、長年埋もれてきた問題である。最近ようやく保健所や診療所で、患者に農薬使用の有無を問診することが、義務づけられるようになった。彼女は、 加害企業にたいする$R100万レアルの罰金と、被害者の医療費の賠償などを勝ち取った。ブラジルで、被害補償をかちとったという意味と、一人で環境裁判 をしたという意味の二重の意味で、最初のケースのようである。彼女は、弁護は、完全にボランティアでされたようだ。原告が貧しいので。映画にでもしたくな るような、話である。
 おはなしをきいたあと、昼食は別々でとった。午後1時に再会し、農村ツアーをしてくださった。裁判とはうってかわって、エコ・ツーリズムの話であった。 とくに目だまは、家畜の糞からガスをとりだして、それを再利用して、脱穀機のような農業機械を動かしている仕組みである。これは州政府の資金がついてい る。この地域は電気はないので、このようなエネルギー源の開発がもとめられているようだ。水は井戸水。8mの深度。のませていただいたが、おいしい水だっ た。トイレは、穴があるだけ。アクセル道路は、土のでこぼこ道。4輪駆動でゆれにゆれての、ドライブだった。
 ラジオ局は、時間切れで取材できなかった。
 最後は、助手のかたが、滝の1つにつれていってくださった。14kmほどはなれたところにある84mの高さの滝である。あいにく、渓谷に霧がかかってい て、みえなかったが、近くの別の滝(高さは低く1mくらいで幅が50mほどある滝が、3つほどある)の観光をした。プルデントポリスには大小50ほどの滝 がある。最大は200mちかい高さで、ブラジル一だそうだ。アクセス道路は舗装されておらず(観光開発されていないようす)、本日もでこぼこ道を4輪駆動 の自動車に2時間、ゆられた。ホテルにも、旅行代理店がはいっていないし、滝観光のちらしすら、おいていない。ブラジルのゆとりということだろうか。
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 このバイタリティあふれた弁護士さんだったら、賄賂やそのほかのインフォーマルなルートをつかわなくても、正面突破で(論理と証拠で)裁判に勝利するの は当然だろうと、納得した次第である。部下の男性のみならい法律家によると、1日15時間はたらく人らしい。
【写真】 Vania弁護士が主催している環境NPOが、HSBC銀行や連邦環境省とくんでとりくんでいる農村開発の地域のようす。Faxinal(日本語の「里 山」にあたろう)の中にある。最初のは、飼っている家畜の糞からガスをつくる仕組み。次は、そのガスで動く機械で、とうもろこしをくだして家畜の飼料をつ くる。実は少しガソリンもつかっている。電気は、この地域には、一切ない。3つめは84mの高さのある滝だが、もやでまったくみえなかった。また再度きな さいということだろう。
gas ojisan
taki