2008年ブラジル滞在日記 その21  by Keiichi YAMAZAKI
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67  クリチバ市の環境コンサルタントに話しをきく
 この方の専門の1つは、環境アセスメントのようである。いま、Agua Verde地区にある市立霊園による地下水や土壌の汚染が深刻で、改善策を提案する市のチームに所属されている。ブラジルはキリスト教の影響があって土葬 がおおいが、地面の下に埋葬するパターンと、棺を安置した縦長の空間を地面の上につみあげていくパターンがある。3つ、4つとつみあげていく。1つ1つは jazigoといい、それが積み上がった構造物をgavetaというようだ。gavetaは辞書には「引き出し」とあるが、実際におおきな引き出しのよう に みえる。これは「業界用語」なのか、一般的呼称なのか、わたしにはわからない。
 さて、埋葬後、そこに雨水がしみこみ、結果的に土壌や地下水の汚染が生じる。そこで、汚染を防止するためにどうすべきかを、チームで考えているそうであ る。火葬については、一般庶民の間に、文化的・宗教的な抵抗があるだろうとのことであった。
 都市化の進展で、すでに埋葬用地の不足の問題も生じており、これは中国でも深刻で、麗澤大学の小島麗逸先生らが『アジア墳墓考』という学術書を数年前に 刊行されている。クリチバでは、マンションないしホテルのようなビル型のお墓も、すでにあるそうである。
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 イタイプ発電所は、世界最大の水力発電所のひとつで、先週見学した。ダム湖もおおきく、琵琶湖が2つはいる大きさである。それは、このパナラ州とアルゼ ンチンの国境地帯の気候を変えてしまった。こうした巨大な資源開発の機構は、Royaltyという特別な税金を政府に納付する。それが自治体にも交付金と して還元される。昨今の国際的資源ブームのなかで(資源バブル)、ラテンアメリカの資源開発会社は膨大な収入増を経験している。石油、天然ガス、鉄鉱石な どなど。イタイプ発電所の収入がブームの影響をうけているかどうかは、調べていないので、わからないが、いずれにせよ多大なロイヤルティをしはらってお り、自治体がそれを適切に支出しているかどうかが、市民の関心の的となっている。ペルーも鉱山がおおく、鉱山会社の支払うRoyaltyの自治体還元分 (交付金)を、自治体が適切に支出していないのではないのかという疑いがあるようで、うちの院生(横国大修士課程)が研究している。ブラジルでも、この Royalty収入の増大は、地方財政研究者の間で話題になっている。
 今回取材したコンサルタントは、別の観点から興味深い意見を開陳してくれた。Royaltyは、環境破壊への補償金だと理解されるという。
 一見国際経済と無関係のような地方財政研究が、Royaltyという租税(ないしある種の開発負担金)を通じて、世界経済の動向とダイレクトに結びつい ており、1つの重要な研究課題となっている。

69 イタイプダム
 このダムは、パラグアイとブラジルの共同経営となっているダムで、Binacinoalと形容されている。ビナショナル。つまり二国籍ダムという意味で ある。軍制時代の1975年に着工し、84年から送電がはじまったが、最後の部分が完成したのはなんと昨年、2007年であった。昨年ルーラ大統領も参加 して、完成の式典が開催されたことが、ダムの見学者向け説明映画で紹介されていた。発電機は20機あり、すべて稼働すれば14000MW(メガワット)/ 時の出力となる。
 写真は、イタイプダムのごく一部である。この左右にさらに続く。おそらく、ネットにもいろいろ写真がころがっていることだろう。
 2006年に女性研究者であるIvoneさんが、歴史学の博士号請求論文を本にして、刊行された。市内の最大手書店であるCuritibaというチェー ン店で、みつけたので、買った。文字通りITAIPUと題された本 で(ポルトガル語)、433頁の大著である。アルゼンチンもふくめた複雑な国際交渉の過程、二国間による企業体経営の複雑さ、環境影響、polemicな (物議をかもしすような)論点など、ほぼすべてのことがらがかかれていると思われる。これは、類書が少ないようなので、研究史に残る本だと思う。歴史学で あり、わたしと分野が異なるということもあるし、分厚くてとても消化できないので、評価は控えたいが、一瞥した印象では、このメガ事業を多面的に観察さ れ、矛盾や利害衝突に満ちたプロセスとして生き生きと描いていると感じられる。
itaipu

68 AVINAのクリチバ支局へいく
 AVINAというのは、ラテンアメリカ各国に支部のあるおおきなNGOで、環境破壊や社会問題にとりくんでいる。「持続可能な社会」をつくることをめざ している。ドイツの有名な環境保護のリーダー(財界リーダーでもある)のステファン・シュミットハイニーがはじめた、ラテンアメリカ地域を専門とする国際 NGOである。
 公害裁判が何十年と継続しているという話をきくことができた。しかし司法の閉鎖性が強く、展望がないようである。この問題については、人権擁護を担当す るMinisterio de Público のサイトに、情報があるとのこと。華々しい国際NGOのスタッフが地味な公害裁判の情報をもっておられたので、やや意外だったが、ありがたいことであっ た。
  写真は、AVINAのクリチバ支部が入居しているビル。たいへん立派な現代的高層ビルの1Fにある。
 avina