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クリチバ市内の貧困地区の改良計画(COHAB-Curitbaの活動):サイト見学ツアー(6月2日 月曜日 午後) 下は市の南部のXapinhalという地区で、小さな川である。ここに15年くらい前からのスラムがあり、約500世帯が 暮らしていた。改良プログラムでは、そこのひとたちを、Novo Orizonteという新しい地区にたてた公営住宅へ、移住してもらった。 下は、移転先のNovo Orizonte地区のようす。下水道、舗装道路、電気が整備された地区である。改良された地区では、それだけ固定資産税(IPTU、正確な訳語は「市街 地家屋・土地税」)もあがることになる。改善された地区でくらすと、仕事もみ つかり、所得もあがるので、IPTUも払えるはずだとのことだが、実際にどうかは調査してみないと何ともいえないだろう。いずれにせよ、社会的に排除され てきた人々(exclusão social)を再統合(inclusão social)していく重要な事業であるといえる。 次の2枚は、Parolinという、かなり貧困な地区。ここは、これから移転計画が始まる。1950年代からある古い貧困地区で、 1577世帯が暮らしている(約4000人)。15%が、ゴミ収集で暮らしている人で、実際にcatadoresの人たちが使うゴミ運搬カートがたくさん 集合していた。新しい地区には800戸を建設する予定とことだが、用地確保がたいへんらしい。地区内にはいるについては、案内してくださった市の住宅供給 公社Cohabの建築家Vさんが、ここの住民組織の代表者に電話で了解をとってくださった。その方は、名前はきいていないが、たいへん熱心に活動される方 らしい。 こうした改善計画は、上下水道整備、街灯、電気、道路舗装などにたいへんな投資が必要で、莫大な費用がかかるらしい。つまり 住宅建設だけではなく、「都市整備」をしているわけである。COHABは、住宅供給公社というよりも、都市整備公団である。したがって、すべてのスラム街 で実施することはできず、いろいろ資金集めに走り、集まった予算の範囲で、計画をつくっていく。米州開発銀行や連邦政府の資金など、いろいろ探すらしい。 市の財政だけでは、十分な数のプロジェクトを実施することはできないが、国際機関や連邦政府にも十分お金があるわけではないので、COHABは常に予算不 足の状況だと思われる。 50 パラナ州アルミランテ・タマンダレ市内の州立小学校の取材 日記第11号の記事第44番で、アルミランテ・タマンダレ市の最貧困地区の1つを紹介したが、以下はセントロに近い場所にあ る州立の小学校で、とくに5年生から8年生までを対象にしている学校である。中学校もはいっているわけだ。 女性の校長先生に取材した。たまたま前を通ったので、アポ無しで飛び込んだのだが、少し時間があったようで、丁寧に応対してくださった。 ブラジルでは、1年生から8年生までの小中学校をensino fundamental、高校をensino médioという。2007年に表現がかわり、両者をあわせてensino basicoというようになっており、それにあわせて連邦政府の義務教育補助金のFUNDEFも、FUNDEBへと変更されている。FUNDEFは、どこ で聞いても、評判がよく、これで教育の質がかなり改善したようだ。主に教員の人件費に補充される特定補助金である。 この州立の学校は、したがって小学校の高学年+中学校ということになる。生徒数870人で、教員が38名、職員をふくめたスタッフ全員は58名。給食は ないが、軽食がでるらしい。その軽食は無料で、学校内でつくるとのこと。それが大事な栄養源だという最貧地区の児童もいるらしい。朝は7:30~11: 45、昼は13:00~17:10、夜は19:00~22:00までの、3つの部からできていて、子どもはスクールバスで、通学する。ô nibus escolarという。バスはたくさんあり、市のバスだが、管理運営には州政府の援助があるとのこと。 プールはない。プールをふくめた体育教育施設全般について、拡充を希望されていた。ブラジルの小学校はあまりプールはないと思う。オリンピックの水泳競 技は、いつもほとんどのレースが先進国の選手の独占になる。競泳は、先進国のみの、いわばかなり贅沢なスポーツだといってよい。安全な飲み水がなくて、水 たまりの水を飲んでいる子どもたちが下痢でバタバタ死んでいくような途上国社会で、プールに入れる水は、ない。わたしはスポーツの中で水泳が一番好きで、 自分自身一番興じるスポーツは水泳だが、貧しい途上国の人が活躍できる競技としては、陸上とサッカーが代表であろう。 教科書は、日本のような厳しい検定制度はなく、各学校が自由に好きな教科書を市場で供給される商品群から選ぶ。このあたりは文科省の統制がきつい日本と は、まったく異なる。ちなみに科目は、国語、算数、歴史、地理、理科、英語、芸術、体育の8科目。いわゆる公民は、ない。必要におうじて、APMF (Associação de Paises, Mestres e Funcionários)という、教職員保護者会が開催される。教員と保護者だけでなく、職員がはいっている点が、日本と異なると感じ た。 それにしても、校長先生には言わなかったが、卒業式で君が代を歌うかどうかで教員と文科省が対立し、歌わない教師を確認するための監視員が教育委員会か ら各学校に派遣されるという事態は、自由なブラジルではありえない。説明しても、理解してもらえないように、感じた。日本の公立学校は、陰湿で暗い。い や、日本の公教育コミュニティそのものが、文科省の過度の統制の影響かもしれないし、気候風土や国民性のためかもしれないが、暗くて陰湿だ。そういえばブ ラジルは、国歌そのものが、リズミカルで明るい。君が代はメロディも歌詞も暗い。歌詞については、「こけがむすまで~」とあるが、苔はじめじめした場所に 生える。むろん苔も、苔むした岩が配された美しい日本庭園を思い出せば、いい面もある。 日本は自殺者の数が毎年3万人を超える社会である。ふと思うが、よくもまあ、じめじめしたあんな国で暮らしているなあと、自分自身が不思議だ。もう すぐまた、その陰湿な日本に戻ることになる。明るい国から、暗い国へ。とほほ…だが、実はブラジルにも「暗さは」ある。たとえば、60年代、70年代の軍 事政権時代に軍や警察に不当逮捕されて、そのまま行方不明になった人は、まだいるはずだ。アルゼンチンやチリでは問題になっているが、ブラジルにもこの問 題は未解決で残っているはずだ。ほとんど触れられることがない、「明るい」ブラジルの、深い暗部である。ブラジル人が満点という気もない。周辺の小国への 態度など、大国の傲慢さもあると思われる。 以上、5月30日(金曜日)に、見学した。施設はかなり立派で、また教員の方々の顔つきもしっかりされていて、いわゆる無資格教師はいないように感じ た。校長先生も無資格教員はいないとおっしゃっていた。 51 パラナ州の上下水道整備状況 6月1日の、Aníbal Khury州立公園の開園記念式典に、州の上下水道公社SANEPALlのパネル展示がなされていた。そのパネルから拾った数字である。 (1) 上水道 パラナ州で上水道が整備されている場所に暮らす人の数 は、約850万人。州人口は1028万人(2007年の推計)なので、かなりのカバー率だ。都市住民については99.0%普及している。 847のpoço artesianoがある。これは、「アルトワ式井戸」のことで、アルトワはフランスのアルトワ地方(Artésia)と関係があると思わ れる。自噴式井戸。 276のcaptação de superfícieがある。これは表流水を集めた場所のことだと思われる。 179の浄水施設がある。 上水道の総延長は39,171km。 上水の供給をうけている家は2,325,413戸。 (2)下水道 440万人の州民がカバーされている。都市住民の51.5%。 州内に、211の下水処理施設がある。 下水道の総延長は20,519km。 1,098,441世帯が下水道に接続している。 (3)総合的に パラナ州の399のムニシピオ(基礎自治体)のうち、344団体をSANEPALがカバー。 Tarifa Social(社会的料金)というが、貧困な人に割安の水道料金がわりあてられている。その受給者が州内で160万人。下の左は、その説明会の様子のパネ ル写真の写真。右は、工事の様子のパネル写真の写真。 |