拾遺・日本渓清流魚名周覧と魚学雑録
2014年1月1日初版発行( 私家版 500部 )

全編にわたりコレクションの国内外魚類切手が配置され、眼を癒してくれます。  

吉安克彦氏出版記念会
平成26年10月26日(日)            

左:新田雅一氏・跋文
右:吉安克彦氏・著者
うなぎの「魚伊」
大阪の老舗店
 
装丁:布貼、イラスト金箔象嵌
アート紙梨地加工、糸かかり上
製本、紙は大阪、名古屋には
なく東京から取り寄せ学術書
や美術全集のような私家版では       
稀れなな仕上げ。


表紙:日本固有のサケ属で起源
種のヤマトマス幼魚・アマゴ
裏表紙:雙鯉ならぬイワナとヤマメ
の魚文様は中国語で魚をYU(Uは上に・・)
ユイと発音し、また富を意味する中国語・
有餘(ユイ)の有り余ると同意と同発音で、
富と幸福または子孫繁栄のシンボルとして
約5000年以上前から、2尾の魚をデザイ
ン化された「双魚文」がみられるに因む。
逸れるがこのめでたく縁起が良い
ところから西周時代、紀元前1120年頃
の中国では下図の如き干魚形頭部穴明き
で、金属貨幣の起こりの、青銅製魚幣(無鱗
・有鱗の大中小)の貨幣が使用されていたの
は興味深い。

*** 収録されている俚言、地方名、古名等の語数 ***

      
<地方名、古名等> <2008年>
収録語数
<2009年>
補遺分
以降の
補遺分
<2011年>
補遺分
<2014年>
補遺分
< 合計 >
採録語数
オショロコマ 29 ± 0 +1 30 +3 33
アメマス系イワナ 175 +14 +43 232 +11 243
山女魚関係 590 +17 +89 696 +37 733
アユ 270 +14 +77 361 △1 +43 403
ウグイ 287 +15 +233 535 +10 545
カワムツ・ヌマムツ 162 +5 +164 331 +6 337
アブラハヤ 213 +16 +153 382 +6 388
タカハヤ 120 +1 +66 187 +2 189
オイカワ 362 +13 +293 668 +15 683
ハス 33 +1 +9 43 +2 45
カジカ 418 +38 +306 762 +15 777
ニホンウナギ +728 728 +45 773
アカザ +337 337 +24 361
カマツカ +457 457 +15 472
合計 2659 +134 +2956 5749+233 5982

目次
・発刊によせて(天子山人)
・序文
・既刊”増補・日本渓清流魚名周覧”の各界知名人から頂いた読後感
・拾遺・日本渓清流魚名周覧
・魚学雑録
 サケ属起源種・ヤマトマス(アマゴ)と琵琶湖固有種ビワマス(サツキ)の新知見と再考
 嗚呼・斫り口よ今何処!!
 特殊な在来支笏湖岩魚の一所見と考案
 江戸期の代表的国内外魚類図譜−渓清流魚図から見た寸言と雑話−
 続・鱗画譜(日本在来天然岩魚と渓清流魚達及び晩秋谿谷の図)
 渓流魚の突然変異型一覧(オショロコマ・イワナ・ヤマメ・アマゴ)
・昔昔噺-TV番組「すばらしきかな釣り人生」出演の記-
・跋文

以下抜粋
●「発刊によせて」天子山人
本著の主たる魚名周覧については前著では増補になっているが、今回は「拾遺」となっている「拾遺」とは残っている筈のものを拾い集めると
言うことだが、僕はこの拾遺なる言葉に著者の燃えるが如き執念を感じる。加えて申せば、その執念に更なる拾遺として続くことだろうと思う
が、それが余命の活力につながって欲しいものである。
 せっかくの「発刊によせて」の機会なのでペ−ジを追い以降は祝文と言うより著者の著述内容と対話や語り草となる形で文を進めてみたいと
思う。
●「序文」
85才の今、回顧すれば、余りにも短かったな、[Time flies like an arrow (光陰矢の如し)]と感じる人生行路の総括として、以前から気掛 
りな疑問や問題点に関して大量の資料を再検討し編み出した結果、次の3小論文を作成した。 
(1)は分類学的にサケ属そのものが、、渾沌としている現状を憂慮し、私なりに確信を持って陳べた一文が「サケ属起源種、ヤマトマス(アマゴ) 
と琵琶湖固有種、ビワマス(サツキ)の新知見と再考」である。 
(2)は、日本在来イワナ属の中で、最も特異な狭小飛び地の分布域を占め、今正(まさに)に絶滅寸前にある”キリクチ”に付いての挽歌にも似
た小文で、特に地域漁協の営利一辺倒で環境破壊に当たる無差別放流移植と釣師のモラル(密漁、乱獲 Over Fishing、リリースの不実行等々) 
について、文字にはしなかったが、遠回しに述べた積りの、挽歌「嗚呼・斫り口よ今何処!!」です。
(3)は、日本の最も特異な湖、支笏湖。ビワ湖の水量の4分の3という膨大な水量と最深部360mという日本第2位の深さを呈するこの湖に、
約3〜4万年前から大瀧にて完全隔離された支笏湖イワナについて、その興味深い大淡水圏中の生態進化学的派生と分化及分類学的立場を、
憶測に基づいて論議したのが「特殊な在来支笏湖岩魚の一所見と考案」で、勿論今後の研究に俟つ事大である。
以上3論文に関し忌憚なきご批判とご叱正をお願いしたく思います。
 文末ですが先般の既刊本の読後感として、知名人の方々。世界的なサケ・マス研究者ロバート・ベンケ博士、近年「動植物地方名辞典」や
「全国方言名集覧」編纂という詳細で膨大な資料を集録・体系化され、日本方言学の金字塔、不滅の業績を打ち建てられた白井祥平博士、出
版界に於て、渓流魚を主体とする出版書を多数発行されている、異色の出版社々長、橋本均氏からも、身に余る貴重なご批判とご叱正を頂き
感謝申し上げます。この場をお借りし掲載させていただきますが、全く厚顔無恥で反面冷汗三斗です。
 また、権威ある専門雑誌・日本魚類学会誌・2012年4月発行の図書紹介欄に掲載紹介されている一文も付加して置きます。
●「魚学雑録」
○サケ属起源種・ヤマトマス(アマゴ)と琵琶湖固有種・ビワマス(サツキ)の新知見と再考 
○前置き・Preface
 本稿に述べる「サケ属」Oncorhynchus(鼻曲りを意味する)属に、形質を共有するという条件を含むGenetic characterが全く無い種属・ 
Salmo属に属している、ニジマス、カットスロートトラウトやヒラマス、メキシコ黄金マス等の一族を、1989年、アメリカ水産学会
Oncorhynchus属の範疇に所属を変更した。対して世界の関係機関や研究者も何故か、アメリカの言い分は十全の機能[Almighty]
がるという風潮があるのか、世界中が素直に受け入れ、目立つ反論がないのは不可解である。
 この置換[Replacement]の理由の一つは、ニジマスがヤマトマス(アマゴ)Oncorhynchus rodurusの血液成分と似ている(吉安の報告に
も見られる)等の事、私にとっては全く笑止千万で、系統進化学的にはニジマス原種からOncorhynchusが分岐派生したのでは事実であるが、
これは学問上全く次元の違う話である。それよりもかって曾て、私の古くからの知友で元コロラド州立大学教授・R.J.Behnke.Ph.D.(1969)が、
前出の魚種をSalmo属のタイセイヨウサケとブラウントラウトを除いて、新設したParasalmo属の範疇[Category]に入れたが、
私はこの属名に復活させるのが最適切であると提唱する。
 だが全般的に、近年「属」は安定性がなく不明確なものとなり、数量分類学等による詳細な研究を行わない限り、曖昧[Ambiguous]な分類群
となり、過去の孰れの学名も有効なのが現状という有様。
 然しながら、本題で述べるヤマトマス(アマゴ)は、約40万年前の大分県玖珠産・サケ属始原種・起源種魚類化石の末裔[Descendant]、
直系[Lineage]とする私の仮説に矛盾はない。
 また、約35万年前頃、古大阪湾から旧淀川を経由して琵琶湖水系に伝播したヤマトマス祖型が、河川に留まったアマゴ系統とは別の系群が
湖中の深層圏という新天地を気の遠くなる時を経て開拓し、生態的適所[Niche]を築き進化繁栄して来た謎多き[ビワマス]に付いて今回特に
述べたいと思う。
○本論・Main Subject
 主人公は、1957年、大島正満博士が古来琵琶湖の竹生島西北の深部に棲息生育せている特産鱒に「ビワマス」と命名したに始まる。
この折残念な事に木曽川で採捕されたカワマス(本稿ではヤマトマス)と山梨県笛吹川支流日川産のアマゴもビワマスの中に総括したが、その節
の説明で、鱗相については、ビワマスの鱗は環状線は数頗る多く、相互の間隔は著しく狭い。
 アマゴ・カワマスは露出部は環状線をなすも相互の間隔はやや広く、数もやや少ないと正に正確に解説している。が、このまま続ければよい
のに態態突然他種サクラマスOncorhynchus masouと比し乍ら、ビワマスは体高低く、眼経も著しく大きいとしながら、論旨はカワマス・
アマゴとビワマスを全く同一視して述べている。(2図は省略)
 1968年、吉安はビワマス(幼魚名・サツキ)とアマゴの差異について、鱗相、朱点の発現、体側や鰭[Fin]の黒点発現状況について述べ
ビワマスはヤマトマス(アマゴ)の祖先が琵琶湖で独自進化したもので、大島線内のアマゴは殆どが河川残留型、一部で汽水域の沿岸部降海
・遡上型がみられる。これらはビワマスとは亜種関係にあり、アマゴの降海肥大しマス化したものに、新和名『ヤマトマス』を提唱しつつ、
その原種の系統発生起源地を大河古揚子江(長江)系が注ぎ込む、当時入り海の沖縄舟状海盆トラフで、地史的には約40万年前と思考し報告
した。 次いで吉安は、1973年より東京大学農学部水産化学教室の松浦文雄教授及び橋本周久(かねひさ)教授のご指導の下、これらサケ科
のHb(ヘモグロビン)澱粉ゲル電気泳動分析を行い、英文論文4報を日本水産学会誌に報告。これは当時世界的に大きな反響を呼んだ。は少なくとも、
同じ1973年「ビワマスとサケ属」と題して掲載された。
 その翌年1974年、魚類学の泰斗・中村守純博士は、「ビワマスのはなし」−アマゴとビワマスの差異−と題し、吉安の提唱するヤマトマスの
仮称は狭義の大和地方を思い浮かべる恐れががあり不適で、本庄鉄夫博士(当時、岐阜県水産試験場長)の提案する「サツキマス」が最適である
としつつ、吉安の言うビワマス幼魚地方名”サツキ”と混同するのが気掛かりであると主張した。しかし固執するが、この魚種の和名はすくなく
とも、国際性が必要不可欠なサケ属起源種という世界的な注目種であり、また[ヤマト=大和]とは日本国の古名で「ヤマトマス」の和名は最
適名称であるであるとここに再提唱する。(参考までに、ニホンマスはサクラマスの別名である。)また、越後荒川では古来より「サツキ・田植え」
の後に捕るその年最初のサクラマスを「サツキのマス」と呼んでおり、極めて紛らわしく、アマゴの降海遡上型サツキマスの名称は不適格である。     
況して、先取権[Priority]呼称の問題も考慮して欲しいと思う。
 加藤文男博士(1978)は、アマゴとビワマスとの間には、幽門垂数、横列鱗数や体側の朱赤点及び生活形、成熟年令等の生態的にも相異があ
る事を報告した。

 吉安(1994)(1997)はビワマス(成魚の近江方言・アメノウオ)とヤマトマスの体高差、体側朱赤点の発現差等以外に、ビワマスの頭部側面形態は、
幼魚サツキを含め吻端に向かってやや直線状の切れ込み状を呈し(図省略)、また側面から見ると吻端から眼部前部は直線に近い三角形の尖り
を示し(図省略)、アマゴ・ヤマトマスが流線型を呈するのと比し、また口吻部も短く、明瞭に異なると指摘した。
 また、吉安(2011)は『頭部側線孔(大孔器)から見たサケ科魚類の系統進化学的考察と雑感』の中で近縁種間という条件付きで、眼下管大孔器
数の多寡から、少ない方から多い方の種に進化していると述べたが、その折資料不足の為ビワマスについては論じ得なかった。 
 本稿の核心に入る前に、先ずヤマトマスとビワマス夫夫の生活史概略を誌す。(生活史概略、図、引用文献は略:本著をぜひ参照して欲しい)
<ヤマトマス・アマゴの生活史>と<ビワマスの生活史><ビワマスとヤマトマスの相違点>略
○結論・Conclusion
A・ビワマス頭部側線孔器数や分布範囲の観察結果から、ヤマトマスのそれと比し諸感覚機能が高度化している。これは暗中適応放散による
特殊進化と考えられた。
B・今回、ビワマスの同定[Identification]に必要な主たる分類学的形質[Taxonomiic characters]8項目を列挙した。
C・ビワマスはヤマトマスの祖型が約35万年前後琵琶湖に伝播し、その一部系群が湖の深層で地史的経過をへて、生態的活動範囲[Niche]
を開拓しつつ進化して来た湖固有の種属で、今やヤマトマス(アマゴ)とは亜種関係の範疇にある。
D・起源は淡水域という定説のサケ類、その現生種Existent species]の内、外洋には出ず、汽水域では狭い回遊範囲という極めて原始的
要素を維持する貴重なサケ属起源種・ヤマトマスと、また共に日本固有種[Peculiar Species to japan]のこのヤマトマスと一方のビワマス
は、近く絶滅危惧種[Endangered species]になる事は間違いない。責任を持って子孫への自然遺産伝承の為に、早急な・保護・保全・育成
対策が必須[Obligatory]である。
●「江戸期の代表的国内外魚類図譜−渓清流魚図から見た寸言と雑話−」図譜と著した12名の人物紹介。
●「跋文」謝辞で今回、高松松平家所蔵『衆鱗図』香川県歴史博物館2005刊行図録を国立科学博物館、上野輝彌博士よりご恵贈くださり、
ご教示いただきました。他方、貴重なオランダ・ライデン市のNaturalis所蔵の川原慶賀筆「アユ原画」につきましては、元熊本大学理学部
故山口隆男博士の重要資料を、ご家族の温かきご理解によりご提供くださいました。(画像は下記参照)
 最後になりましたが、多くの貴重なる古典籍や方言関係の書類の閲覧をご許可いただいた機関や関係者の方々に感謝の意を表します。
大分県立図書館、大阪府立中央図書館、武田科学振興財団・杏雨書屋、国立民族博物館 (順不同)

ファウナ・ヤポニカ魚類編の原画として活用された 
川原慶賀図(1830年前後の画図)    
紙本彩色、ライデン国立自然史博物館所蔵
山口隆男博士撮影
この画が本に華を添えています。

著作権については吉安克彦氏にあります。無断でコピーや転載しないでください。

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