2008年ブラジル滞在日記 その8 
by Keiichi YAMAZAKI

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32   CUT(労働組合の全国ナショナルセンター)のパラナ州本部
 cut_parana
 先日、パラナ産業界の人たちの、APL(arranjo produtivo local、地域的産業集積の1種)形成促進のための会議にださせていただいた。そこには、金融界の方もむろんおられて、CEF(連邦貯蓄銀行)の方もお られた。そのCEF(Caixa Econômica Federal)の方は、ジンメル(姓)さんというが、銀行の労働組合のかただった。CEFの経営会議は、経営(資本)、労働、市民社会の3者から構成さ れるので、労働関係者がはいっている。ジンメルさんが、CUTを紹介しましょうかというので、お願いした。CUTは、ブラジル連邦政府の現与党であるPT (労働者党)の重要な支持組織である。現政権を理解するうえでも、重要な取材先である。
 それにしても、ビジネス界の打合会にいったのに、労働側のコネクションが増えたというのは、不思議な展開であった。
 パラナ州本部のセルジオ(名)さんが対応してくださった。いろいろ細かいこともたずねたが、最大の疑問は、「90年代以降のグローバル化のなかで、労働 組合は衰弱しているのに、なぜブラジルで労働者政権が成立したのか。誰が支持しているのか?選挙では組織票が重要だが、労働組合の組織率は低下しているは ずだ」ということである。労働組合がつよくなっていって、それで労働者政権が成立したなら、わかる。現実は逆だ。論理的に、どうかんがえればよいのか。経 済学は論理が重要である。
 これについての完璧なこたえを書く準備は、わたしにはできていない。セルジオさんの説明を紹介して、1つの解答例としておきたい。
 たしかに労働組合の組織率は低下している。とくに90年代初頭のコロル政権で、経済自由化がすすめられて以降、競争がきびしくなり、倒産がふえた。その なかで、「連帯経済」といった代替的な(オルタナティブな)経済をもとめる発想がひろがった。そうしたなか、貧困対策プログラムが、バラバラであったが、 FHCによって導入された。それを統合して、集権化したのが、ルーラ労働者政権である。とくにBolsa Famíliaがおおきい。それを得ている人たちが、とくにインフォーマル・セクターの住民が、ルーラ政権を支持している。ようするに、労 働者が支持しているというよりも、組織化されていないインフォーマル・セクターの住民が、支持しているのである。以上がおよその説明内容である。
 そうだとすれば、「労働者党政権」ではあるが、「労働者政権」ではなのかもしれない。
uisol
 CUTとしては、インフォーマル・セクターとの連帯を重視して、組織労働者と、非組織労働者の間の架け橋となるような、起業プログラムをつくっている。 それが、UNISOLであり、ADSである。UNISOLは、Central de Cooperativas e Empreendimentos Solidários(連帯的組合・起業センター)の略で、インフォーマル・セクターの零細事業者に、ベンチャービジネスというとおおげさ だが、起業支援を提供しようというものだ。ADSは、Agência de Desenvolvimento Solidário(連帯的発展局)の略だ。従来の、賃金や労働時間などの労働条件の改善に集中した活動からかなり踏み出した、新しい取り 組みであるが、新しいので組合内部での理解が十分に得られているとはいえないと思う。たしかにそうだろう。組合員にしてみれば、インフォーマル・セクター の人たちの起業支援よりも、自分たちの賃上げ活動をがんばってくれというのが、指導部への要請であろう。いずれにせよ、労働組合の活動としては、興味深い 取り組みである。
 最初の写真は、CUTパラナの本部の建物である。ビルではなく、家だった。
 あとの写真は、UNISOLの紹介パンフレット。
  それと、下は、CUTの事務所の壁にはってあった、orçamento públicoに関する説明会、ないし勉強会ないし講演会の案内。4回にわけて、開催されるものである。
orcamento
33  Para levar  (追記部分は赤字にしました)
    キロ売りのレストランで昼食をかった。かなり盛ったが、1kgいかない。750gだった。値段は$R15.それを持ち帰りにしたが、その場合は、最初から お皿にはとらず、アルミのいれものにいれていく。正確にはどのような素材か知らないが、銀色の厚めのアルミ箔のような素材でできた、約8cmの 深さのあるお皿に、好きな料理をとって、盛っていく。最 後にそれを
計量して、同じ素材でできた丸いふたをしてくれる(店によっては蓋は紙でで きている)。写真は、そのふたと本体を一瞬であわせて閉じる便利な器具、これである。ちなにみ、持ち帰りたいときは、Para levarという。ペルーと同じだが、スペイン語ではPara llevarで、発音は「パラ・ジェバー」ないし「パラ・イェバー」となる。スペイン語のllの発音はわたしには難しい。ポルトガル語は、「パラ・レ ヴァー」である。
paralevar

34   生鮮食料品の大型市場
  Cajuru地区の中にある、野菜市場。ものすごく広い。数字を示さないと伝わらないが、150m×150mあるいはもっと広い建物のな かが、全部生鮮食料品の市場になっている。小売りのことをvarejoというが、その大きいものだから、varejãoという。赤バスに のって3つめか4つめにあるので、近くて便利である。近代的なスーパーとは異なる、伝統的流通経路での市場である。 キロ売りしているのがおおくて、日本とは桁違いに安い。インフォーマル・セクターの不安定就業者にとっては、それでも高いかもしれないが。
   varejao2

35   夜10時すぎまで大学がある
 パラナ連邦大学の経済学部の夜の講義に出席してきた。今は、現地時間でいうと、平成20年5月14日(水)の午後11時半ころである。マリアーノ・マ セード教授の地域経済学の講義で、本日は地域的産業集積の話である。パラナ州の産業集積について、理論解説をまじえての講義であった。Arranjo Produtivo Localの話である。先生にもらった本に書いてあったが、マリンガの近くのArapucana市がAPLの一例で、帽子の大産地である。ブラジルの帽子 の8割がここで生産される。選挙の年はとくに帽子の生産がふえるらしい。さて講義の開始が20時50分で、おわるのが22時頃である。家を出たのが19時 半。まわりはすでにくらいし、こわい。本当にこんな時間に学生が大学にいるのだろうかとおもって、心細くなってバスにのった。大学周辺に近づいても、あた りはまっくらである。ますます不安になる。
 しかし、大学キャンパスにはいると、昼間のようににぎやかであった。終わる頃も、まだにぎやかであった。
 朝は、7時半から1時間目がはじまり、夜は10時すぎまで、ブラジルの大学の一日は長い。ただし昼間はそれほど学部の授業は、ないようだ。学部生は、朝の講義を中心に履修して いるひとは、午後はわりに自由な時間をもっている。大学院のセミナーや、大学院の講義は、昼の14時頃からある。