ブラジルのコンドミニアム
(高級住宅)市場
【情報整理】
  山崎圭一@経済・横国大(Eメール:yamazaki@ynu.ac.jp)
                          2004年5月4日 初版
 
 


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はじめに
 私は以前ブラジルの住宅金融制度について、何本か論文を書いたことがある。金澤史男編著『現代の公共事業』日本経済評論社、2002年に所収の論稿が一例だ−−そのとき焦点を当てたのは、BNHという国立住宅銀行であった。これは、大衆住宅の供給を目的とする住宅銀行・住宅金融制度の破綻の経緯を、フォローした論文である。「ブラジルの住宅問題」といえば、日本人を含めた「外国人」には、まずはファヴェーラとコルチーソということになろう。しかしそれだけで尽きたと考えるのは、ブラジルをあまりにも一面的に見ていることになる。ブラジルにも中所得から高額所得者向けのマンションや戸建て住宅市場がある。それらに問題がないわけはない。完璧な住宅建設などあり得ないので、程度の多少はあれ、欠陥住宅問題は、あらゆる社会階層を襲うのである。深刻な欠陥(床の傾斜、部分的きしみ、上階からの騒音、雨漏り、排水パイプのつけ間違い、シック・ハウス、コンクリートの調合ミスによる外壁のひび割れ、など)は、売り主の責任だ。私が数年前に購入して現在住んでいるマンション(コンドミニアム)は良質な方だと思うが(高級じゃないが)、完璧ではなかった。多数の世帯でトイレの排水パイプに配管ミスがあり、トイレ内の小さな手洗い場に下から臭気が上がってきた(地下の汚物タンクに手洗いの排水パイプが接続してしまっていた)。また私の家では、エアコンのパイプ用の壁穴が1つ足りない部屋があった。幸い業者側は、すぐに飛んできて(交渉は管理組合がやってくれたが、全くもめなかったようだ)、費用はすべて業者負担で改善してくれた。日本では「売り逃げ」を決め込む業者も多いようだから(有名な大手を含めて)、住民は結束して断固業者と闘うしかない。他方小さな欠陥は、発想を転換して、購入者にとっての楽しみの種と考えよう。自分で少しづつ修繕を加えるのは、「マイホームつくり」の一環で、人生の楽しみだと私は考えることにしている(ただしあくまで軽微な欠陥に限る)。
 ブラジルも都市社会で、マンション暮らしの人が多いから、いろいろ問題もあるはずである。このGWに、中流から上流の人々が暮らす住宅の供給体制がどのようになっているかについて、調べ始めた。東京に本社のある大手不動産会社がブラジル進出の可能性を検討中で、私に情報提供の問い合わせがあったことがきっかけである。以下は、個人研究を目的とする情報収集活動の中間報告である(不動者会社とは無関係)。
 
1 コンドミニアムの意味
 本節では、Embraespという会社が提供するデータを中心に、検討を進める。表1〜表3は同社のHPに掲げられた表や情報を再整理したものである。この会社のフルネームは、ポルトガル語でEmpresa Brasileira de Estudos de Patrimônioである(ブラジル不動産研究所と仮訳しておこう)。1973年に設立された民間の不動産コンサルタント会社で、営業対象地域は全国である。同社のHPのURLは、http://eesc.usp.br である。なお、http://www.anuarioarquitetura.com.br/artigos_condominios.asp
の情報も参照した。
 最初に用語の定義をしておこう。ブラジルでは、日本でいうマンションはaparta- mento(アパート)という。他方コンドミニアムというのがあり、これは高級マンション(集合住宅)や閉鎖型の「要塞町」を指している。後者は、フルネームで書くと、「condomínios horizontais fechados」で、直訳すると、「閉鎖型水平コンドミニアム」だが、それでは意味不明である。英語でいうgated communityで、日本語では以前NHKスペシャルが米国の例(コト・デ・カザ地区)を紹介したときに「要塞町」と訳していた。地区全体が塀で囲まれている場合が多いようだ。ゲートが設けられ、門番が立っている。地区内には大型の戸建て住宅のみが集まっている場合もあれば(マンションのような集合住宅ではなく)、集合住宅が立ち並ぶコンドミニアムもある。有名な、アルファヴィーレ地区は大邸宅のみで、高層集合住宅はない。コンドミニアムには、レジャー施設、プール、運動場、サウナ、フィットネスおよび駐車場などが完備していることが望ましい。コンドミニアムは、1棟だけの場合もあるし、数棟が立ち並んでコンジュント(建築物群)を形成して、その地区全体がコンドミニアムと呼ばれる場合もある。また低層の大邸宅からなる要塞町も、上述したようにコンドミニアムであるから(「閉鎖型水平コンドミニアム」)、かなり意味内容の範囲の広い言葉である。いずれにせよ、プールやサウナなどの共用施設がかなり充実した居住用地区ないし施設を指している。また最近は、自然の緑も重視されてきており、それが敷地内に確保されたコンドミニアムもあるようだ。
 
2 基礎的データの整理
 表1は、サンパウロ大都市圏(以下「大SP」と略す)における住宅とオフィスビルの新規建設の動向を示している。大SPとは、サンパウロ市(人口は2003年時点で一千万人を超えている)を中核する周辺37の市町村(ブラジルではムニシピオという)を含めた都市圏域である。ただし経済圏域ではなく、あくまで行政区域として法律で区分された地域を指している。したがって実際の「経済圏域」(その確定は厳密には難しい)は、それよりさらに広いかも知れないし、狭いかも知れない。大SPの人口は、2000年時点で1787.8万人だったが、現地で出版されたばかりの最新のブラジル年鑑(Almanaque Abril 2004)でみると、約1830万人と出ている。依然として人口面で拡大を続けている。ブラジルには、このように法律で制定された大都市圏が26あって、ブラジルの総人口(1億6987万人)の約4割が、こうした大都市圏で暮らしている。
 さて大SPの住宅建設数であるが、 数字を丸めると、毎年3万戸以上の供給があり、多い年で6万3000戸が供給された。ここ1年くらいの東京のマンション建設戸数は8万戸で、これと比べるとやや少ない。しかし東京の8万戸は、過剰供給で値崩れを起こしているようにも思われる。それを考慮に入れると、3万戸が少ないとは、断定できないかも知れない。他方オフィスについては、1200棟から6000棟程度、毎年供給されているようだ。
 
 表1 サンパウロ大都市圏での住宅およびオフィスビルの新規建設数の推移
 住宅(要塞町型含む)オフィス・ビル


年  


 
事業




 
供給戸数




 
一事業の平均供給戸数

 
事業数


 
供給コンジュント数


 
一事業の平均供給コンジュント数
 
1平米あたりの平均価格(米ドル)

 
円ドルレート(およそ)
 
日本円(1平米)



 
30坪あたり




 
左の数字を、丸めると(単位:百万円)
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
03-04(*)
358
456
497
479
451
335
319
448
421
478

 
26,346
30,572
33,871
54,936
63,410
28,600
32,946
37,963
32,748
31,527
31,618
73.6
67.0
68.2
114.7
140.6
85.4
103.3
84.7
77.8
66.0

 
18
26
32
47
57
42
22
19
20
22

 
1,417
1,609
2,571
4,472
6,169
3,624
2,101
1,257
1,725
1,776

 
78.7
61.9
80.3
95.1
108.2
86.3
95.5
66.2
86.3
80.7

 
1,854
2,775
2,346
2,559
1,912
2,411
1,490
1,984
2,362
1,767

 
120
110
85
110
120
140
120
105
110
125

 
222,480
305,250
199,410
281,490
229,440
337,540
178,800
208,320
259,820
220,875

 
22,025,520
30,219,750
19,741,590
27,867,510
22,714,560
33,416,460
17,701,200
20,623,680
25,722,180
21,866,625

 
2,203 3,022 1,974 2,787 2,271 3,342 1,770 2,062 2,572 2,187
 
合計4,242404,53795.4 30526,72187.6 - -  - -  - 
 注:(*)印は、2003年の3月から2004年3月までの13ヶ月間のデータ
 出所:Embraesp社のHP内の関連頁
    (http://eesc.usp.br/nomads/condominio3.htm )より2004年
    5月にダウンロードした情報に基づき、作成。
 
 価格については表2を参照されたい。住宅については、30坪当たりに換算してみたところ、370万円から660万円の間で推移している。他方オフィス・ビルについては、同じく30坪に換算して 1800万円から3000万円の間で推移している。ただし為替レートが変動しており、とくに1999年は1月に通貨パニックが生じてブラジルのレアルのレートが3分の1に下落した。
 
 表2 サンパウロ大都市圏における最近13ヵ月間の住宅価格
年月




 





 
1平米あ
たりの平
均価格
(レア
ル)
 
1平米
あたり
の平
均価
格(米
ドル)
円ドル
レート
(およ
そ)

 
日本円(1
平米)



 
30坪あたり




 
左の数
字を、丸
めると
(単位:
百万円)
 
2003march1,125 315 120 37,798 3,741,962 374
2003april1,198 405 120 48,584 4,809,856 481
2003may1,385 467 119 55,605 5,504,908 550
2003june1,282 430 119 51,225 5,071,249 507
2003july1,137 400 120 48,013 4,753,307 475
2003august1,178 397 120 47,677 4,720,043 472
2003september1,688 567 118 66,852 6,618,320 662
2003october1,391 481 111 53,352 5,281,863 528
2003november1,447 508 110 55,838 5,527,982 553
2004december1,237 420 108 45,329 4,487,539 449
2004january1,054 366 107 39,184 3,879,263 388
2004february1,717 583 106 61,820 6,120,206 612
2004march1,722 595 105 62,474 6,184,921 618
平均 1,370 468 112 52,444 5,191,956 519
出所)表1に同じ。
 
 表3は、大SPでの住宅供給の内訳である。2000年のサンパウロ大都市圏の住宅の新規供給量は37、963戸だが、そのうち要塞町型コンドミニアムは、2535戸が新規に供給された(地区数では55地区)。要塞町型コンドミニアムが大SP内の住宅供給総数に占める割合は、1990年代は2.5%から6.7%の間で変動した。さてコンドミニアムの事業数(地区数)については、90年代初めと比較して、サンパウロ市内でのコンドミニアム地区の割合はそれほど減っていない。しかし供給戸数でみると、大SP内のサンパウロ市外の構成比が顕著に伸びて、市内での供給数の構成比は4割以下へと激減した。つまり供給戸数の多い大型のコンドミニアム地区(要塞町含む)の開発がサンパウロ市の外側で進んだことを意味している。このことは、都市論としてはどう解釈すべきか。この変化は、従来のサンパウロ像にどのような修整を求めているだろうか。
 第1に、市内の治安が悪化しているので、高所得層が大SP内のサンパウロ市郊外にある中規模都市へ逃げ出しているといえる。第2に、とはいえサンパウロ市内でも要塞町開発の案件が依然としてかなりあるので、この点にも注目しておく必要がある。やはり高額所得者にとってサンパウロ市内の、情報やインフラが集積した環境は、仕事と生活に有利なのであろう。さらにほかの解釈もできるであろう。今後の課題である。
 
 
表3 サンパウロ大都市圏でのコンドミニアム(condominios horizontais fechados)
   の新規建設数
 全住宅(要塞町含む)「要塞町」型コンドミニアム






 
事業





 
供給戸数
(A)




 
一事業の
平均供給戸数




 

  事 業 数

   供 給 戸 数
一事業の平均供給戸数

 

SP大都
市圏
(B)

サンパウロ市内(C)
カッコ内は
C/B×100

SP大都市圏(D)
カッコ内はD/A×100

サンパウロ市内(E)
カッコ内は
E/D×100
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
- 
358
456
497
479
451
335
319
448
- 
26,346
30,572
33,871
54,936
63,410
28,600
32,946
37,963
- 
73.6
67.0
68.2
114.7
140.6
85.4
103.3
84.7
4
14
11
22
28
26
25
34
70
4(100.0)
10(71.4)
7(63.6)
20(90.9)
22(78.6)
18(69.2)
21(84.0)
29(85.3)
55(78.6)
168( - )
830(3.2)
759(2.5)
854(2.5)
2,604(4.7)
2,345(3.7)
1,128(3.9)
1,288(3.9)
2,535(6.7)
168(100.0)
355(42.8)
358(47.2)
730(85.5)
739(28.4)
908(38.7)
757(67.1)
472(36.6)
990(39.1)
42.0
59.3
69.0
38.8
93.0
90.2
45.1
37.9
36.2

合計

4,242

404,537

95.4

234

186(79.5)

12,511

5,477(43.8)

53.5
 出所)表1に同じ。
 
3 その他の情報源から
 以下は、http://www.anuarioarquitetura.com.br/artigos_condominios.asp の情報を整理した。ブラジルでは、大都市のみならず、中規模都市でも、マンション需要が堅調である。サンパウロ市の場合、140万世帯が3万のコンドミニアム(要塞町を含む)に暮らしている。1世帯平均4人家族とすると560万人で、市人口の約半分に当たる。彼らは、2002年現在で、6859戸の要塞町型地区(閉鎖型水平コンドミニアム、いわゆる邸宅の部類が立ち並ぶ地区)と、5、394、000戸のマンション(ポルトガル語ではアパルタメント)に住んでいる。
 サンパウロ市では、すでに350のコンドミニアム地区がある(表3では234だが、これは過去9年間の新規整備地区の累積合計)。パラナ州クリチバでは200のコンドミニアム地区があり、アマゾナス州のマナウスは12地区ある。サンパウロ州では現在、Cotia市、Alphaville地区(Barueri市)およびTamboréの三地区で、コンドミニアム供給全体の4割を占めている。これに続くのが、Guarulhos市、Vila Formosa、Mogi das Cruzes市、Morumbi地区(サンパウロ市内)およびButantã地区(サンパウロ市内)である。サンパウロ州の大都市圏部分以外では、Campinas市、Vinhedo、 Itaiba、 Indaiatuba、 Louveira、Sumaré、 Ribeirão Preto、São José dos Camposなどで、コンドミニアムが徐々に増えている。
 
<サンパウロ市内の(閉鎖型水平)コンドミニアムの具体的地区の例>
Villa Amalfi地区
 
29棟の集合住宅が7万平米(2万1千坪)の敷地に立っている。娯楽空間として4300平米が確保。戸数は522。
Portal do Morumbi地区最初にできたコンドミニアムで、1970年代に造成。しかしまだ市民は抵抗感があり、広まらず。
Ilha do Sul地区1973年に最初に造成された、垂直型集合住宅のコンド ミニアム
Jardin地区(サンパウロ市の中心の高級住宅街)最初にできたコンドミニアムの1つ
Chácara Flora地区最初にできたコンドミニアムの1つ
Alto da Boa Vista地区最初にできたコンドミニアムの1つ
Cotia地区最近最も廉価なコンドミニアム。43平米で32、000レアル。すでにコンドミニアムが一部の大金持ちのための施設でなくなりつつあることを意味しよう。
Jardin Europa地区(上記のJardin 地区の1つ)近年ではもっとも高いコンドミニアム。716平米で310万レアル。 
 
一応終わり−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

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